医薬業界・医療制度の動向を解説

医学部の新設をめぐって議論は二分:医師が過剰になるとの懸念も

研修医の外科離れが深刻

他の先進国に先駆けるかたちで超高齢化社会に突入しようとしている日本にとって、持続可能な医療提供体制をいかに再構築するかは重要な課題となっています。

地域医療の体制が深刻な医師不足によって大きく揺らいでいるなか、地域や診療科による医師の偏在も問題として指摘される一方で、医師の絶対数不足をどう補うのかという議論も活発になっています。

診療科の偏在の背景には、勤務時間が長くリスクが高い外科が敬遠されがちなこと、仕事とプライベートの両立を考え眼科や皮膚科等を目指す若手が多いことをはじめ、医師の専門性が求められる施設が医療機関に限らずにさまざまな分野に広がりを見せていることが挙げられます。

すなわち、社員の復職支援をはじめ、メンタルヘルスや健康管理を行う産業医として一般企業に勤めたり、製薬企業で新薬の臨床開発やマーケティングに携わったり、健康診査を行う社医として生命保険会社で働く医師も増えているのです。

医師の養成機関である大学医学部の所管省庁である文部科学省は、2009年度から大学医学部の入学定員枠を拡大してきました。2007年度から2011年度にかけて定員枠数は1,000人以上増えて約9,000人となっています。しかし既存の医学部では施設設備や教員の質と数を確保することは難しいため、これ以上医師養成数を増やすことはできません。そのため同省では2010年に医学部新設をも睨んだ中長期的な方針を作成するための有識者会議を設置して検討に入りました。

当時の政権(民主党)はOECD(経済協力開発機構)の参加国における人口1000人あたりの医師の平均数(3.24人)を目指して、医師数を1.5倍にするビジョンを打ち出しました。文部科学省では地域医療の建て直しを最優先としているものの、高齢化の進展を見据えた医療人材の確保、基礎医学分野の人材確保、国際的な医療貢献を担える人材の確保を目指すとしています。

しかし、医学部の新設をめぐる議論事態は二分されておりコンセンサスに至っていません。検討会では、医師不足解消の手段として医学部の新設は欠かせないという意見がある一方で、医師の偏在問題を解消することができれば新設は必要ないとして、問題の根本である偏在問題に取り組むべきだという反対意見が出されています。現在、北海道、宮城県、栃木県、静岡県にある4大学が医学部新設に前向きとされており、全国的に見ても医師不足が顕著となっている千葉県も成田市が誘致を表明しています。

しかし、全国医学部長病院長議会は現在の定員を維持していても将来的には医師の供給過剰になる恐れがあるとの懸念を示しています。日本医師会は、医学部新設は地域医療の崩壊を止めるどころか逆に加速させるという立場を取っています。その理由として、教員を養成するために関連病院に派遣されている医師の引き上げが起こること、医学教育の水準・医療の質の低下を招く恐れがあることを挙げています。